生まれ育った一戸建ての家を売却 「上物」の評価は15万円

私は母を早くに亡くし、長男ですので結婚後も生まれ育った家に父と同居しました。東京都内の一戸建て住宅です。
その父が病床に伏したのが、今から18年前のこと。かなり深刻な病で、入退院をくりかえすような状態でした。
父が最初に入院したタイミングで、地主さんから「借地権の更新」の通知がありました。そうです。その家は両親が、結婚後に購入した持ち家ではありましたが、土地は借地だったのです。
借地権の更新には、それなりにまとまったお金がかかります。また、父がお世話になった病院は、自宅から電車で40分ぐらいかかるところにありました。
通うのに便利な距離とはいえません。さらに、家自体が老朽化して、あちこちガタが来ているという事情もありました。
そこで、入院中の父と相談。「この際、家を売って、病院の近くのマンションに引っ越そう」ということになったのです。
父にしてみれば、新婚時代に母と建てた家。私にとっては生まれ育った家です。もちろん、愛着は小さくありません。
けれど、現実問題として、売却がベストの選択だったと、今でも思っています。
その家は、意外に早く買い手が見つかりました。その際、不動産屋さんの指示で、都税事務所へ行って、家の上物の評価額を確かめにいきました。
すると、出された答えは、なんと「15万円」。築40年ですから、それほどの評価は期待していませんでしたが、まさかそんなに安いとは!
病床の父に報告すると、父も驚いて、しかし、そのあとで笑ってこう言いました。「その程度の評価の家なら、売っても惜しくないな。かえって、よかった」。
父は愛着ある家への未練を、その笑いで断ち切ったのでしょう。今は亡き父のそのときの笑顔を、私は忘れることができません。